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日本銀行のマイナス金利政策とは(効果と悪影響)

日本銀行のマイナス金利政策とは(効果と悪影響)



マイナス金利政策は、ECB(欧州中央銀行)が先行して導入した金融政策です。マイナス金利政策とは、付利を引き下げるだけでなく、マイナスにする政策で、これは自国の通貨安を誘導するために行われる政策(海外に比べて金利が下がれば通貨高(円高)の圧力が弱まる)で、マイナス金利にすることで市場の資金を他の通貨の運用に仕向けようとする政策です。加えて、中央銀行に預けられている民間銀行の預金を市中に振り向け、景気の刺激と物価上昇を狙う政策でもあります。



【日本銀行のマイナス金利政策について】

ECBが先行して導入したマイナス金利政策ですが、日本でも日本銀行が金融政策の一つとして2016年2月に導入しました。

日本ではそれまで、日本銀行はマイナス金利政策はしにくいとされていました。というのも、日本銀行は量的・質的金融緩和(QQE)によって民間銀行から大量の国債の買い入れていましたので、超過準備の残高がECBに比べて圧倒的に多いです。超過準備の残高が多い状態でマイナス金利に踏み切ってしまえば、その分、民間銀行の収益が下がってしまい、その影響によって民間銀行の全体的な利ざやも縮小してしまいますし、マイナス金利政策はマネタリーベース減少にもつながります。マイナス金利になると民間銀行は日本銀行から借りている大量のお金を返そうとしますので、マネタリーベースが減少してしまうのです。マネタリーベースが景気を刺激するかどうかは一概には言えませんが、政策として日本銀行はマネタリーベースを増加させるようにしていますので、マネタリーベースの減少は市場に「金融引き締め」と捉えられる可能性があり、日本銀行はマイナス金利政策はしにくいとされていました。しかし、日本銀行はマイナス金利政策の導入に踏み切りました。

日本銀行がマイナス金利政策を導入することによって、以下のような効果を見込むことができます。


一つ目は、円安効果です。マイナス金利政策は、自国の通貨安を誘導するために行われる政策でもありますので、為替が円安に進むことが期待されます。日経平均株価は為替が円安に進めば上昇、円高に進めば下落する為替レートとの連動性が高い株価指数ですので、全体的な株価の上昇も期待されますし、円安でメリットを受けやすい企業の収益改善にもつながりやすくなります。

二つ目は、市中(市場)に回るお金の量が増える効果です。マイナス金利政策は、民間銀行など金融機関が中央銀行(日本銀行)に預ける当座預金の超過準備(払い戻し分を超過した金額)に付く利子(付利)をマイナスにする政策ですので、民間銀行が中央銀行に資金を預けると金利分の預金が減ってしまいます。ですので、民間銀行など金融機関は、中央銀行に資金を預けるより融資や投資で資金を運用しやすくなります。それによって、先行不安の改善、企業収益の改善や賃金の上昇、それに伴って景気回復や物価上昇の効果が期待されます。

三つ目は、市中(市場)金利が低下する効果です。マイナス金利政策は市場金利の低下要因ともなりますので、企業向けの貸出金利や住宅ローンの金利の低下が期待されます。企業向けの貸出金利が低下すれば、企業は設備投資しやすくなって収益改善・景気の刺激につながる効果が期待できますし、住宅ローンが低下すれば住宅が売れやすくなる効果が期待できますので、景気にとってはプラス要因と見ることができます。ただし、市中に回るお金の量が増えますので、不動産価格は上昇しやすくなります。




【日本銀行のマイナス金利政策の悪影響について】

@民間銀行や保険会社の収益悪化懸念

マイナス金利政策の導入は悪影響もあります。マイナス金利政策の導入は、金利での収益が多い民間銀行や保険会社の収益を押し下げる要因となります。マイナス金利政策は、付利がマイナスとなるだけでなく、市中金利も低下します。その影響によって全体的な利ざやも縮小してしまうことが予想されますので、銀行株・保険株にとってはマイナス要因となります。



A中小向け融資縮小・貸出金利引上げ・企業預金金利マイナス・不良債権拡大懸念

民間銀行の収益が下がれば民間銀行はリスクをとれなくなってしまいますので、中小企業向けの融資を縮小する可能性が高まりますし、収益悪化を避けるために、貸出金利の引き上げや企業預金の金利をマイナスとする動きに出たり、無理に融資拡大を行って不良債権が拡大する可能性もあります。



B資金が国債へ向かう懸念

マイナス金利政策は、民間銀行が資金を融資や投資で運用する効果が期待できる政策ですが、実際に民間銀行が融資や投資に資金を振り向けるかどうかは不透明で、日本経済の先行きに成長期待が持てなければ企業は銀行からお金を借りようとしませんし、リスクオフが意識されるため、民間銀行はその資金を国債に振り向ける可能性も高いです。民間銀行が資金を国債に振り向ければ、日本銀行が買う国債が減ってしまう恐れが出てきます。また、資金は日本国債ではなく海外の国債にも振り向けやすくなり、その影響で海外の国債の金利は低下し、日本との金利差が拡がりにくくなるので、円安の効果が薄れる懸念もあります。



Cドル高による米国と新興国経済への影響

マイナス金利政策の導入は自国の通貨安(円安)を誘導する政策の一つですので、自国の通貨安によってデメリットを受ける企業の収益も下がりやすくなることが予想されます。また、日本銀行のマイナス金利政策はドル高要因ですので、米国の景気失速が懸念され、日本経済への跳ね返りが予想されますし、ドル高によって新興国の通貨は安くなりますので、ドル建ての債務を抱える新興国の企業にとって返済負担の厳しいものとなり、業績悪化や信用力の低下を引き起こしやすくなります。また、新興国の企業にドル建て債務を担っていた米国の投資信託ヘッジファンド、年金などは資金を自国へ引き揚げよ うとします。そうなれば、新興国にとっては業績悪化や信用力の低下に加えて資金調達がしたくてもしにくい状態となってしまい、世界的に新興国経済への懸念が大きく出て、世界経済を大きく揺るがす事態になりかねないとませんし、ドルの調達コスト上昇による影響も懸念されます。



D発射台の低さによる円安効果への懸念

日本に先んじてマイナス金利を導入していたECBは、マイナス金利導入によってユーロ安を誘導できました。それは、ドイツなどの金利が低下し、ユーロが下がって銀行貸出が増える効果が出たためです。ただ、日本の場合はこれとは事情が違います。日本の場合は、すでに金利がゼロに近い状態でのマイナス金利導入ですので発射台が低く、金利引き下げによる円安の効果が出にくいと考えられます。またBの通り、民間銀行などの資金が海外の国債へ振り向けられれば金利差も拡がりにくいため、円安の効果が出にくい懸念があります。




※民間銀行など金融機関が日本銀行に預ける預金(日銀当座預金)は3段階に分けられ、それぞれにプラス金利・ゼロ金利・マイナス金利を適用する構造となりました。詳しくは「マイナス金利導入における日銀当座預金の金利の3段階構造の仕組み」のページを参照してください。




マイナス金利解除

2024年3月、日本銀行は緩やかな景気回復と個人消費の底堅さ、賃金と物価の好循環の強まりが確認されてきているとしてマイナス金利解除を決定しました。


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