イールドカーブ・コントロールとは
イールドカーブコントロール(英語|yield curve control/「YCC」と訳されることもあります)とは、「長短金利操作(ちょうたんきんりそうさ)」と呼ばれる、金融市場調節によって長期金利と短期金利の操作を行うことです。
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金融市場
金融市場(きんゆうしじょう|英語:financial market)とは、資本や信用を取引している市場で、金融取引が行われている場(市場)です。金融市場は、債券市場や株式市場、外国為替市場、コモディティ市場などがあります。「市場」と言えば、実物を取引するイメージが強いですが、金融取引では必ずしも物理的に実物を取引する市場を必要としません。例えば、外国為替市場は、ネットの通信網や相対取引で行われています。ネットの普及によって、金融市場は物理的でない市場になっていきています。
金融市場は、金融取引を行う者の需給(需要と供給)をマッチングさせる場です。その需給によって成立した価格がその金融商品の価値の評価となっています。金融市場はそれを行う場としての役割を果たしています。
金融
金融(きんゆう)とは、お金が余っている主体の余裕資金を、お金が足りない主体に貸し出すことです。お金が余っている主体を「資金余剰主体」、お金が足りない主体を「資金不足主体」といいます。「金融」の語源は「お金の融資」です。お金の融資とは、お金を融通する、お金を貸すという意味です。現在では、「金融」と言う場合、お金の融資という意味だけでなく、「お金の運用」や商品やサービスを購入する際の「お金の支払い」といった意味で使われることも多いです。
個人や企業のように、生活や経営など経済活動を行う主体は、経済活動を行うために商品やサービスを消費したり投資する必要があります。そのためにはお金を支払う必要がありますが、そのお金が不足している場合、個人であれば将来得られるであろう給料、企業であれば事業で得られるであろう将来の利益をアテにして、現時点で商品やサービスを消費したり、投資するためのお金が欲しいというニーズがあります。そのニーズに応えるのが金融です。例えば、欲しい商品があっても手元にお金がない場合、クレジットカードを使えばその商品を買うことができます。お金は後日クレジットカード会社に支払えばいい仕組みになっています。これはクレジットカード会社が代金を一時的に立て替えてくれているから可能となっています。
このように、資金余剰主体から資金不足主体にお金を融通することで、経済の流れがスムーズに行えます。この仕組みを「金融」といいます。
逆に、金融がなければ、資金不足主体は手元資金だけで経済活動を行わなければならないので、あきらめなければならない消費や投資が多くなり、経済活動の規模は拡大が望めません。
こういったことから、金融は「経済の潤滑油」と呼ばれています。
一方、金融は無制限にお金を融通するというわけにはいきません。資金量と経済活動のバランスが取れている必要があるので、資金余剰主体の余裕資金の範囲が資金不足主体に貸し出せる範囲となります。また、資金余剰主体もいつまでもお金を貸しているわけにもいかないので、支払いをいつまでと区切る必要がありますが、将来は不確実ですので、資金不足主体が支払いできなくなるリスクがあります。これを「信用リスク(クレジットリスク)」といいます。資金余剰主体は信用リスクを抑えるために、資金不足主体の返済能力などを審査することになります。
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長期金利
長期金利(ちょうききんり)とは、お金を貸し出す期間が1年以上の場合に適用される金利です。
金利は債券の相場によって動きます。ゆえに長期金利も債券の相場によって動きます。長期金利が指標としているのは「新発10年国債(国が新規に発行する償還期間が10年の国債)」の「利回り」ですので、一般的に「長期金利」と言えば「新発10年国債利回り」のことを指します。例えば「米国の長期金利」と言う場合「米国の新発10年国債利回り」のことを指しています。
債券は、債券価格とその利回りが注目され、債券価格が値上がりすれば利回りは低下し、債券価格が値下りすれば利回りは上昇する関係になっています。ゆえに、新発10年国債が値上がりすれば長期金利は低下し、新発10年国債が値下がりすれば長期金利は上昇します。つまり、新発10年国債が人気になって買う人が増えれば、新発10年国債の価格が値上がって利回りは低下し、長期金利は低下、新発10年国債が不人気になって買う人が減れば、新発10年国債の価格が値下がって利回りは上昇し、長期金利は上昇します。
その他、長期金利の解説は、
のページを参照してください。
短期金利
短期金利(たんききんり)とは、お金を貸し出す期間が1年未満の場合に適用される金利のことです。短期金利の指標となるのは「無担保コール翌日物金利」です。
民間の銀行は、お金を金庫に置いていても利益が出ませんので、普段あまりお金を持っていません。ゆえに、民間の銀行はお客さんに預金してもらったお金を貸し出して運用してます。ただ、大口の出金があった場合などは、お金が不足してしまいます。ゆえに、その場合は他の民間の銀行にお金を貸してもらってます。この民間の銀行同士のお金の貸し借りの市場を「コール市場」と言います。
コール市場では、民間の銀行同士で信用がありますし、概ね1日だけの短い期間の貸し借りが主ですので、コール市場では金利はとりますが担保はとりません。よって、これを「無担保コール翌日物」といい、このお金の貸し借りの際に付く金利を「無担保コール翌日物金利」といいます。日本では、この「無担保コール翌日物」に日本銀行が介入して金利を誘導しています。
長期金利は長期資金の需給によって変動しますが、短期金利は日本銀行によって調節されています。
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日本銀行がイールドカーブコントロールを導入
イールドカーブコントロールは、日本銀行が2016年9月21日の日銀金融政策決定会合で導入を決めた金融政策で、以後、毎回の日銀金融政策決定会合で決定・公表する金融市場調節方針において、日銀当座預金に適用する短期金利、及び10年物国債金利の操作目標の2つの金利水準が示されます。日本銀行の国債買い入れは、買い入れ額のメドを示した上で長期金利の操作方針を実現するように運営されます。
具体的には、短期金利は日銀当座預金のうち、政策金利残高にマイナス金利を適用し、長期金利は10年物国債金利がゼロ%程度で推移するように長期国債の買い入れを行う、といったもので、主として政策金利残高に対するマイナス金利の適用と長期国債の買入れで行うものとしています。
日銀当座預金
日銀当座預金(にちぎんとうざよきん)とは、「日本銀行当座預金」の略称で、日本銀行が取引先の金融機関等から受け入れている当座預金です。
日本銀行は、準備預金制度で対象となる金融機関(銀行、預金残高1600億円超の信用金庫、農林中央金庫)に対して、受け入れている預金等の一定比率(準備率)以上の金額を日本銀行に預け入れることを義務付けています。預け入れなければならない金額は、最低金額が決まっていて、これを「法定準備預金額(所要準備額)」といいます。法定準備預金額を超えて日本銀行に預けている当座預金または準備預り金を「超過準備」といい、この超過分日には補完当座預金制度で利息(金利)を付すことになっています。
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イールドカーブ・コントロールの狙いと目的
イールドカーブ(利回り曲線)は、期間の短い金利が低く、期間の長い金利は高いのが通常であるため右肩上がりの曲線となりますが、日本銀行による金融緩和の影響でイールドカーブがフラット化したため、金融市場調節によって長期金利と短期金利の操作を行う「イールドカーブ・コントロール」を行って、イールドカーブを立たせる(スティープ化)ことを狙いとしています。
イールドカーブの解説
イールドカーブとは、残存期間(償還までの期間)が異なる債券などの利回り(金利)の変化を線で結んでグラフ化したものです。イールドカーブは「利回り曲線」といいます。
グラフは、縦軸に利回り、横軸に残存期間の座標をとって示され、
イールドカーブは、一般的には残存期間が短い国債と残存期間が長い国債の利回り(金利)の関係をグラフかして表すことが多いです。
通常、長期金利は短期金利を上回ることが多いので、イールドカーブは右上がりの曲線となります。つまり「長期金利+短期金利」がプラスになる状態です。これを「順イールド(じゅんいーるど)」と言うのですが、これは一般的には将来的に金利が上昇すると思われている場合に出る曲線とされており、景気上昇の予兆として見られることが多いです。
逆に、短期金利が長期金利を上回り、イールドカープが右下がりの曲線を描き、「長期金利+短期金利」がマイナスになる状態を「逆イールド(ぎゃくいーるど)」と言うのですが、これは一般的には将来的に金利が下落すると思われている場合に出る曲線とされており、景気後退の予兆として見られることが多いです。
一方、長期金利と短期金利の差が小さくなることがあります。これを「フラット化」といいます。フラット化は、将来的に景気が後退していく局面や先行き不透明な状態の時に出やすい曲線とされており、イールドカーブの曲線は緩やかな傾斜を描きます。
また、長期金利が上昇し短期金利との差が拡大することがあります。これを「スティープ化」といいます。スティープ化は、将来的に景気が上昇していく局面で出やすい曲線とされており、イールドカーブの曲線は急な傾斜を描きます。
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指値オペも導入
日本銀行は、イールドカーブ・コントロールを行うにあたって「指値オペ(さしねおぺ)」の導入も決定しました。指値オペとは、日本銀行が指定する利回りで国債を買入れることです。加えて、固定金利の資金供給オペレーションを行うことができる期間を1年から10年に延長することも決定しました。
追記(2018年7月31日)
2018年7月31日、日銀が金融政策を修正。金融緩和を粘り強く続けていく観点から、政策金利のフォワード・ガイダンスを導入し、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)付き量的・質的金融緩和のj持続性を強化する措置を決定。
- 政策金利のフォワードガイダンス
2019年10月予定されている消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、現在の低い長短金利水準を維持することを想定している。
- イールドカーブコントロール(長短金利操作)
短期金利は、日銀当座預金のうち政策金利残高に-0.1%のマイナス金利を適用する。
長期金利は、10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。その際、金利は経済・物価等に応じて上下にある程度変動しうるものとし(会合後の記者会見で黒田総裁はこれまで±0.100%としていたものを、その倍程度を念頭にしていると発言)、買入れ額は、保有残高の増加額年間約80兆円をめどとしつつ、弾力的な買入れを実施する。ただし、金利が急速に上昇する場合は、迅速かつ適切に国債買入れを実施する。
- 資産買入れ方針
ETFおよびJ-REITについて、保有残高がそれぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行う。その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとする(2015年12月に決定した「設備・人材投資に積極的に取り組んでいる企業」の株式を対象とするETFの買入れについては、これまで通り、年間約3000奥円の買入れを行う)。
また、CP(コマーシャルペーパー)等、社債等について、それぞれ約2.2兆円、約3.2兆円の残高を維持する。
また、これらの措置と合わせて以下の対応を行う。
- 政策金利残高の見直し
日銀当座預金のうち、マイナス金利が適用される政策金利残高(金融機関間で裁定取引が行われたと仮定した金額)を、長短金利操作の実現に支障がない範囲で、現在の水準(平均して10兆円程度)から減少させる。
- ETFの銘柄別の買入れ額の見直し
ETFの銘柄別の買入れ額を見直し、TOPIXに連動するETFの買入れ額を拡大する(2018年7月31日時点では、6兆円のうち2.7兆円はTOPIX連動型、3兆円はTOPIX、日経平均株価、JPX日経インデックス400の3指数に連動するETFを対象に銘柄ごとの時価総額におおむね比例するように買い入れていたが、8月6日以降、4.2兆円はTOPIX連動型、1.5兆円はTOPIX、日経平均株価、JPX日経インデックス400の3指数に連動するETFを対象に銘柄ごとの時価総額におおむね比例するように買い入れる)。
イールドカーブ・コントロールの撤廃
2024年3月、日本銀行は緩やかな景気回復と個人消費の底堅さ、賃金と物価の好循環の強まりが確認されてきているとしてマイナス金利解除とイールドカーブコントロールの撤廃を決定しました。一方、これまでと同程度の国債購入を続ける方針を示し、金利が急激に上昇した場合は国債購入増額や指値オペを実施する方針を示しました。今後は、短期金利の操作を主たる政策手段とし、無担保コール翌日物金利を0から0.1%程度で推移するように促すとしました。
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